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物心ついたころには父はいなくなっていたし、母も病で臥せっていた。 獣人族――人工的に造られた種族、けれど自分は人間とそれの間にできたハーフだった。 父は人間、母は獣人そんな2人がどう出会ったかはわからない。 後に父は医者だったのだと母に聞かされた。薬を開発する最中に病で倒れかえらぬ人になったらしい。 獣人族は獣の血が入っているせいか、短命で病気にかかりやすい。 だが一般的な薬では獣人族には効かない、生きていくには難点が多すぎた。 父はそれをどうにかしたいと思ったのだろう。 そしてその志を受け継ぐことを決心したのは母が死んだ13のときだった。 * 医者になるにしても膨大な金を要する。 けれど獣人族は人が多い場所を嫌い地下で生活する。そのせいもあって金はあまりなかった。 独学で勉強するのにも限度があった。ましてや人ではなく異種族の医者になるのには情報が無ければいけない。 だから紅月に入った。紅月は確かに盗賊が属する。けれど他の職を持つものだって多いのだ。 金を得て勉強もできてそれでいいじゃないか、とマイペースな自分はそう思って入ったのだ。 実際紅月にもまともな仕事はあった。機械の運搬に物資の輸出、 船に乗りながら仕事をし紅月で得た情報を頼りに勉強をしていけばよかった。 たまに気分転換に古代語の勉強もした。医者だけではやっていけないと思ったからだ。 歴史には興味もあったし自分にもあっていた。 そして俺は15になった。 * 「お頭の?」 「あぁ、拾い子らしいが――まぁ息子って事だろ。今回はそいつも乗船するらしい」 荷物を船へ積み込む作業をしている最中に飛び交った話、紅月の最高責任者の拾い子もとい、息子がくる。 社会見学のつもりなのだろうか? 「それでだ、俺らも結構忙しい。カナタ、お前面倒見ろ。名前は……確かヴァンだったか」 「はぁー? それだったら女口説いてたほうがいいしー」 「まだ15のガキがよく言うな」 「ガキじゃねーっすよ」 周りから見れば確かにガキだろう。だが野望(とはいっても医者になること)はあるし金も大分得ている。 だから頭の息子とかいう存在がなんか異様にイラつかせた。 拾われた子供だから厳しい現実を知っているとは思う。が、そんな子供いるほうがおかしいのだから。 * 「あんたがカナタ?」 船が出発した直後、甲板で海を眺めているときだった。 視線に入らないぐらい小さな子供が口を聞いてきた。 直ぐ側にいることに気がつかないほどぼーっとしていたのだろうか。 10歳前後だろうか、顔つきが幼い。だが顔に刻まれたタトゥーが生々しい。 「年上に向かってその口の利き方はねーな」 「財布……結構入ってるじゃん」 いつの間に財布を奪ったのだろうか、少年は中身を確認すると自分に投げ返した。 その行動に将来を心配してしまうのが哀しかった。 「……お前もしかして――」 「聞いてねーの? 俺はヴァン」 予想以上に強烈――それしか言いようが無かった。 10歳だから無邪気なのはいいとしても盗みを覚えているの驚きを隠せない。 5歳違うだけなのにここまでとは。顔に刻まれた紅月のタトゥー、そこまで人生が狂っている。 * 「コデイ語……?」 何週間か経ったころ、船の一室で古代語の勉強本をヴァンはそう読んだ。 「お前さー、どうやったらそう読めるわけー? これは古代語、コーダーイーゴ。わかった?」 「それくらいわかってる!」 反抗し睨み返してくるが幼い彼を見る限り猫が威嚇している程度にしか見えなかった。 亜麻色の猫毛がそれを象徴するかのように。 「とりあえずーお前もこれ覚えろ」 「なんで俺がこんな変てこな文字覚えなくちゃなんねーんだよ」 「ふーん……諦めるんだー」 「……やってやる」 単純な性格で助かったかもしれない。 自分も結構世話好きだったから苦痛ではなかった。 ヴァンには自分が知っている限りのことを教えた。 古代語から基本的な剣の使い方、獣人族のことまで話した。口説き方を教えてもそれだけはできなかった。 結構初心だったらしい。それ以外のことは覚えも案外早かった。 古代語に関しては幼いゆえか覚えるのが早く自分よりも詳しくなっていたかもしれない。 だが同時に船旅も終わりを迎えた。 「なーヴァン、トレジャーハンターやらねー?」 盗人だけの人生は悲しすぎる。 こんな明るい奴は裏の世界なんかより表の世界のほうが似合ってる。だったら盗人なんかよりも 違う仕事を教えたほうがいい。 「やるっ!」 生きていくために必要なことはたくさんある。その声は希望のしるしだ。まだ俺が15でヴァンが10のときだった。 * そんなこんなで6年経とうとしたときだった。 ヴァンは急に変わった。昔の明るさは変色しつんつんとがっていた。 視線は鋭くなり獣人族より獣らしい目をしていた。 それでお頭に直に聞きにいったこともある。本当のことを話したといっていた。 自分の両親を殺した者が紅月にいるという事実―― 彼の紅月での目的が変わってしまった。 好奇心は憎しみへと変わり、彼は盗人の仕事ばかりしていた。いつか仇に会えると信じて。 そんな彼を見ていられなくなりかなりの間距離を置いてしまった。 だがその2年ほど後、彼の雰囲気は和らいでいた。 紅月とは関係ない世界で何かを必死に探していた。自分はあの間、彼に関わることができなかった。 だからこそ、変わるきっかけを与えてくれた存在を大切にしてもらいたかった。 護れる存在があることを知ってほしかった。 龍を助けるために旅に同行したがそれは彼の世界を見届けるためでもある。 そう、あの青い空のように世界は広く続いているんだ。 きっと自分にも、彼にも―― |